
『
機動警察パトレイバー the Movie』 (PATLABER THE MOVIE)
1989年7月公開/日本映画/監督:押井守/演出:澤井幸次/脚本:伊藤和典
原案:ゆうきまさみ/企画&原作:ヘッドギア/撮影:吉田光伸/音楽:川井憲次
美術:小倉宏昌/キャラクターデザイン:高田明美/メカニックデザイン:出渕裕
メカニックデザイン協力:河森正治、佐山善則、幡池裕行/音響:斯波重治
作画:黄瀬和哉/編集:森田編集室/制作:スタジオディーン
◆出演/篠原遊馬:古川登志夫/泉野明:冨永みーな/後藤喜一:大林隆介
南雲しのぶ:榊原良子/香貫花クランシー:井上瑤/太田功:池水通洋
進士幹泰:二又一成/山崎ひろみ:郷里大輔/シバシゲオ:千葉繁
榊清太郎:阪脩/実山:辻村真人/松井刑事:西村知道 他
東京湾が朱に染まる夕暮れ、篠原重工の天才プログラマー帆場暎一(ほば・え
いいち)が、バビロン・プロジェクト(東京湾開発計画)の要となるレイバー用海上
プラットホーム「方舟」から投身自殺する。
飛び降りる彼の口元に浮かんだ“嘲り”の笑み・・・・それが全ての始まりだった。
時期を同じくして、工事作業用レイバーが突如暴走する事件が多発。 さらには
自衛隊に配備された試作軍用レイバーまでが無人操作での暴走事件を起こす。
特車二課では、第1小隊が近々正式配備される新型パトレイバー(通称・零式)
の研修中のため不在。単独で暴走事件の処理に追われる第2小隊所属の篠原
遊馬巡査(※篠原重工社長の息子)は、多発する暴走事件の異常性にいち早く
気付き独自に調査を開始。 その原因が暴走した機体の全てに搭載されていた
篠原重工製の最新レイバー用OS「HOS」(Hyper Operating System)では
ないかと推測する。
また、同様の疑念を抱いていた第2小隊長・後藤喜一警部補は、「HOS」の主任
開発者だった帆場の足跡を辿る捜査を本庁の松井刑事に依頼していた・・・。
劇場版第二作を先に観た私は、初期OVAで脚本担当の伊藤和典が予告して
いた
「娯楽作品の王道を踏まえた、劇場版第一作制作に当っての三つの誓い」という話を聞いて、もっと安易で“凡百のリアル・ロボット・アニメ然とした”出来に
なっている
(※レイバーのドンパチシーン満載!ノアとアスマに恋が芽生えて…
みたいな・笑)のを予想していた
(※あんまり期待していなかった)のだが・・・・・
素晴しいじゃないか!
パソコン普及率が低かった1980年代末に早くも「コンピュータ・ウイルス」に着目
し、作品の設定要素として取り上げた「先進性」。
特定OSが市場を独占して社会システム全体に大きな影響を及ぼす事の危険性、
「トロイの木馬」型ウイルス、当時のコンピュータでは未成熟だったGUI(グラフィカ
ル・ユーザー・インターフェイス)などを時代(現実化)に先んじて描いた「先見性」。
オープニングの軍用レイバー&戦闘ヘリなどによる戦闘シーンや、クライマックス
でのパトレイバー同士(イングラムと零式)の格闘シーンのクオリティの高さ。
舞台となる「近未来・東京」に奥行きを与えるため、('89年時点の)現代都市・東京
からも失われつつあった昔日の下町的雰囲気が残る風景(※都市の裏の顔であ
り、1950年代の東京に生れた押井監督の原風景でもある)に綿密なロケハンを
行い、それを見事に作品世界に取り込んで魅せた演出
(※松井刑事が部下と共
に帆場の痕跡を求め東京を巡るシーンでは、松井の“アナクロな、いでたち”
と描かれる風景の陰影が、黒澤明の『天国と地獄』を彷彿とさせる)。
東京湾開発計画(バビロン・プロジェクト)の拠点となる海上のレイバー用施設の
通称が「方舟」、OS「HOS」のウィルス作動時にモニター表示される「バベル(BA
BEL)」の文字、電脳テロリスト・帆場英一のイニシャルが「エホバ(E.HOBA)」で
ID番号が「666」(※ヨハネ黙示録)であることなど、劇中各所に旧約&新約聖書
からの引用を配して“キリスト教的終末観(感)”を煽る手の込み様。
キャラクター作画も、作画監督・黄瀬和哉によって、初期OVAシリーズの高田明
美デザインの絵柄(所謂典型的アニメ絵)にほど良い写実的なテイストが加わっ
て、押井監督が意図したシリアスな作品世界に対応出きる絵になっている。
「方舟」への討ち入りを前に、香貫花クランシーがわざわざアメリカから帰国して
まで加わる設定
(※入国管理官「入国目的は?」→香貫花「Combat!(戦闘!)」)は、正直「いらん!」と思ったが・・・こういう細かいツッコミを別にすれば、
全く文句の付け様がない完成度だ。参った!